「胡粉」について調べてみました。

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今回は「胡粉」について調べてみました。私の名前の中に「胡」といういう漢字があるので、なんだか親しみを覚えています。

「胡」の文字には、溜まりや北方民族などの、異邦人感があります。

「胡」という文字は「牛の頷垂(がんする)なり」とあり、牛のあごの下に垂れた皮を言います。また鳥では、鵜やペリカンにあご袋がある。戈(ほこ)にも、柄に装着した部分に沿ってふくらみのあるところがあって「胡」と言います。そして北方民族のことを「胡」と呼ぶそうです。白川静『常用字解』(平凡社 2012年)

胡粉を混ぜて違う色にすると「具・ぐ」という。

 また、胡粉を朱や墨などの粒子の細かい絵具と、混ぜ合わせて中間色を調合する際に、胡粉を「具・ぐ」と呼ぶ事は、大変興味深く思いました。墨の具(具墨)朱の具などです。『丹青指南』では、藍具・藤黄具・丹具などの記載があります。

胡粉のルーツとルート

 私は、本格的に日本画を勉強するようになって、素材から絵の具になる迄に時間がかかる事と、「胡粉」の透明感と不透明感の扱いがとても面白いと思いました。やはり、学習を深めると「胡粉」になるまでの工程にも多くの時間と人の手が入っている事も分かりました。ルーツとルートがあるのです。

 「胡粉」の歴史は、発祥の地は中国です。後漢の時代から続いており、顔の化粧品や絵画彩色材料や壁の塗装に使用されています。当時は「鉛」と「錫」説がありましたが、「鉛」説が有力です。

 胡粉は、奈良時代頃から鎌倉時代頃までは鉛白のことを指しました。貝殻胡粉が白色系顔料の主流になるのは室町時代以降です。室町時代には、観心寺金堂や法観寺塔で貝殻胡粉が使われていました。書院造りの流行と、それに伴う装飾絵画の需要増大があり、白色顔料として供給能力の高い貝殻「胡粉」の白が使用され始め、時期は狩野派が台頭して来た頃です。

「胡粉」の白が印象的な絵画

 「胡粉」の白が印象的な絵画は、『雪中梅竹鳥図』狩野探幽、『象図杉戸』俵屋宗達などです。二つの絵画は作風が違いますが、「胡粉」の白が色艶よく、透明感と不透明感を表し、油絵の具の白では表現しきれない、精神世界を表現している様に思えます。

 胡粉を練る過程で半透明になるのは、胡粉の粒子を膠の膜が覆い、薄い膠膜に光屈折により、半透明に見えるからです。濃い膠液を使うと、乾いた時に厚い膠膜ができ、光屈折により濁白色が出来ます。

「胡粉」はどうやってできるの?

 貝殻の主成分は炭酸カルシウムで、原料のイタボ牡蠣、帆立貝、蛤の貝殻を5年から10年間野外に自然放置して風化させ、砕いて精製して作っています。イタボ牡蠣の上蓋と下蓋の混合比によって上胡粉、並胡粉などに分けられ、上蓋が多いほど純白に近く、明度が高いです。

 胡粉の製法は、イタボ牡蠣を選別し、

1)蓋と身の選別後、研磨機で表面のゴミを取り除き、ハンマーミルで荒砕し、さらにスタンプミルで細かく粉砕して篩にかける。

2)粉に水を加えて練り、石臼に入れて細かく潰す。臼で挽かれた胡粉は下の水槽に落ちるが、臼の横にはおもりをぶらさげた攪拌器がついており、臼の回転により水槽の胡粉の液をかき混ぜる。そして石臼にかける。

3)撹拌された胡粉は粒の大きいものは沈殿し、うわずみの細かいものは槽に流れ込む。これをポンプですくいあげ、機械でさらに精製し品質を高める。

4)泥状の胡粉を杉板の上に流して10日ほど天日乾燥させ、再度細かく紛砕し、箱詰めする。

 胡粉は現在では、京都府宇治市で製造されるだけになっています。その理由は、一大消費地であった京都に隣接すること。原料である大量の貝殻を搬入する際に淀川、宇治川の水運が利用できること。製造上何よりも大切な豊富な水に恵まれていることなどです。

 原材料のイタボ牡蠣は、天然牡蠣の一種で「胡粉」に最適なものであったが、個別採取が行われなくなり、貝殻資源は枯渇しており、良質な胡粉製造が危惧される状況にあります。

「胡粉」のその他の活用法も考えてみました。

 現在「胡粉」は、人形制作や日本画に多く利用されていますが、ネイルにも使用されており、ますますコスメ需要があると考えます。私は美白効果として、石鹸の中に混ぜ込む「石鹸胡粉」や、化粧水と乳液が一緒に入っているオールインワンコスメの中に、細粒胡粉が入っていれば、一本でファンデーション迄カバー出来るのではないかと思います。また、細粒胡粉を保湿クリームの中に混ぜるなど、日本酒乳液と同様にスキンケアエマルジョンが出来るのではないだろうかと考えます。

「胡粉」に色々混ぜて作ってみました。

 また、実際に作ってみたのは、バスボンドに、細粒「胡粉」を混ぜてお風呂の目地にペイントをしてみました。すると、とても綺麗な目地が出来ました。同様に木工用ボンドに混ぜて、家の壁の穴修繕もしてみました。それも大成功でした。やまと糊でも試して、修正液を作りました。お風呂のタイルの欠けている部分にパテで埋めるため、細粒胡粉を入れ、色を調節してみたら、とても上手く行きました。

 「胡粉」の水に溶ける性質を利用して、乾くと耐水性になる液体に混ぜる事で、水にも強くなり発色がとても良いです。また、自然素材であるので環境にも良く、日本のとても良い素材であるので身近に置き、工夫をしながら様々に使用すると面白いと思いました。

皆さんも、「胡粉」というチューブから出てくる白ではない白を使ってみませんか?

参考文献

重政啓治・神彌佐子・星晃・和田雄一『日本画の用具用材』(武蔵野美術大学出版局2010年)

白川静『常用字解』(平凡社 2012年)

『胡粉の白』((有)金開堂)

宮廻正明・荒井 経・鴈野佳世子 『日本画 名作から読み解く技法の謎』(株式会社世界文化社 2021年)