「絵巻の面白さ」再発見の旅に出ましょう。

Blog

こんにちは!

私は今年の夏に『鳥獣戯画』と『伴大納言絵巻』の模写をしたことから、日本の絵巻がとても面白いことに気がついたので、『源氏物語絵巻』と『信貴山縁起絵巻』の表現の特色について考察をしたので、忘れないうちに覚え書きで残しておこうと思います。どうぞお付き合いください。

『源氏物語の絵巻』の特徴を解説をして行きます!

絵巻はやまと絵の発生した平安時代に成立し、絵を描いた巻物です。

絵巻が横長に描いていけるのは、線遠近法ではなく「俯瞰の平行画法」をとっているからでです。

『源氏物語絵巻』が生まれた時代は、約12世紀中頃の平安時代の摂関政治が終焉を迎え、各国の武士団が頭領をいだいていた頃です。『源氏物語絵巻』の原作者は紫式部であり、絵師は藤原隆能と伝えられています。宮中文化を社会背景とした日本最初の物語絵巻です。作画制作はグループによる競合の美でした。天地20㎝少々の絵巻であり、詞書が二紙ごとに切り離されており、一場面一場面が順繰りに巻き広げられて鑑賞をする方法となっています。現在は一図ごとに切り離され額装されています。

『源氏物語絵巻』は「吹抜屋台の手法」で描かれており、建物の屋根や壁がほとんどなく、斜め上から俯瞰する構図になっています。吹抜屋台の構図には特徴があり、間口を水平に置き斜線で奥行きを表す「水平構図」と、間口・奥行きとも斜めに表す「斜め構図」があり、急角度を付けることで苦悩を表す物語の内容にふさわしい構図になっています。

作画技法は「つくり絵」という技法で、まず下書きの墨線で描き、彩色し再び肥瘦がない均一な輪郭線で描き起こしています。線に強弱のない静かな緊張感のある画面です。

人物の顔は「引目鉤鼻」で表されており、空豆形の顔の輪郭は、何重にも線が重なっており、顔の立体感を出す白の繊細な表現や、感情の動きを少しの線の表現の違いで描かれています。

また、人物の特徴として、横顔の鼻の表現があリます。脇役には鼻を描くのに、主人公の横顔には鼻がなく、対比を作っています。「東屋(一)」の中君、「東屋(二)」の浮舟などの後ろ姿の人物の頭部を極端に小さく描かれているのは「女絵」の特徴です。

文様デザインの多彩な表現が多く細密に描き込まれ、調度品や衣装に使用されています。服飾には格別の関心があったように見え、発達した染色文化と日本独自の服飾技術を作り上げたみごとな服装です。絵中絵が屏風や障子に風景が描かれており、趣のある生活が偲ばれます。

『源氏物語絵巻』の詞書は、5つの書風に分類されています。「柏木」から「御法」の段まで、しなやかな線を組む、細くしなやかな線で連綿と続けて書かれています。優美な美しい文字です。

私は、最近かな文字書道を習い始めたのですが、この優美さにため息が出ます。そして「美」の意識の格調の高さに驚きを隠せません。

このコロナ時期に難しいかもしれませんが、平安京を偲ぶ京都に行き、再び平安時代の文化に触れてみたいです。

『信貴山縁起絵巻』の特徴も見てみましょう。

『信貴山縁起絵巻』は12世紀の藤原時代が終わり、院政時代に移行した時代に制作された絵巻です。作者は不明です。構成は「飛倉の巻」「延喜加持の巻」「尼公の巻」の三部構成になっており、「飛倉の巻」には詞書がありません。鑑賞方法は、連続式絵巻になっており左行性という形式特性で、両手で巻き進めながら鑑賞されるアニメーションの原型となっています。優れた宮廷絵師が描いたとされています。

「飛倉の巻」では、建物が右側を見せる「右面構図」から始まり、冒頭から鉢が転がり出し、倉が動き、人々が動転する様子が非常に豊かに描かれています。人々の服装や建物に当時の生活様式を垣間見ることが出来ます。霞が場面転換と時間経過のフェイドイン・フェイドアウトの役割を果たしており、住房の置かれた山は、それ自体が「逆遠近法」で描かれ奥に向かうにつれて、樹木が大きくなっています。

「延喜加持の巻」では、門と塀は左側面を見せる「左面構図」となり、左側から来る人を迎える図になる。走り来る童子は信貴山から送られて来た、命蓮の法威力のたまものであり、時間順序を逆転させたシーンになっています。

「尼公の巻」では、「右面構図」と「左面構図」が混在し、東大寺を「線遠近法」で建物を描き、大仏の存在感を表現し、慈悲の思いに浸れる絵作りになっています。大仏の前に尼公が何人も描かれているのは「異時同図」の表現方法です。尼公は旅立つ時は男と馬も一緒だったのに、最後には笠もなくなり、一人で旅する姿に心を打たれます。そして、命蓮と尼公が再会を果たし、二人の修行生活を表現する「異時同図」の室内表現に幸せを感じ、情愛に満ちた物語に共感し、信貴山を背景に心を止める表現になっています。

供大納言絵巻と鳥獣戯画絵巻の模写をしてみた感想から・・・

私がこの『源氏物語絵巻』と『信貴山縁起絵巻』を鑑賞し、模写授業で実際に模写を経験したことから考察すると、絵師の息使いがまるで違う作品であると実感します。

『源氏物語絵巻』は浪漫的に封じ込める物語絵巻であるのに対して、『信貴山縁起絵巻』はドラマチックに動く、説話絵巻です。

『源氏物語絵巻』は物語を見せる対象は貴族であり、絵の様に鑑賞する絵巻であるのに対して、『信貴山縁起絵巻』は説話文学を絵巻にしているので、見せる対象は幅広い人が対象であったと思われ、『宇治拾遺物語』にこれと同様な物語が載っています。

絵巻の時代背景を考察しながら、今を生きている楽しさを実感しよう!

時代背景として先に『源氏物語絵巻』が制作され、後に『信貴山縁起絵巻』が作られた事を想像すると、貴族の中で『源氏物語絵巻』にある宮中の生活の閉塞感の息苦しさから、もっと自由になりたい。動きたい。という欲求の流れで『信貴山縁起絵巻』が生まれて来た様に思います。藤原時代において顧みなかった庶民の文化が貴族の間でも、大きな力を持って来たのではないでしょうか?

奈良時代の密教文化の副産物として、平安時代に線画による日本独自のやまと絵を作り出し、かな文字を作り全体の絵画性を引き上げた平安時代の「視覚的時間芸術」の創造性の高さに感嘆したと同時に、日本画を専攻している私はバトンを受け取った様に思い、自分の制作に生かして行きたいと思いました。

皆さんも、ちょっと興味を持って絵巻を観察して頂けると、日本の美術の奥側を知ることが出来て、深みのある日常になって来ると思います。

参考文献

高畑勲著『十二世紀のアニメーション』徳間書店2019年

佐野みどり著『じっくり見たい『源氏物語絵巻』』小学館2000年